「音韻・音声・音素・単音」について、日本語教育能力試験の合格という観点からまとめてみました。
「音韻・音声・音素・単音…。どう違うか、よくわからない。」という方、参考にしてみてください。「ミニマムペア」と「異音」についても書いてあります。
「音声記号だけ知りたい」という方はこちらをご覧ください!
☞ 国際音声記号(IPA)【第1章 母音(ア行)・子音(カ行)・ガ行鼻濁音について】
この記事を最後まで読んでいただけたら、以下のことがご理解いただけます。
「音韻・音声」というテキストをずっと見ているのに、結局「音韻・音声・音素・単音」などがよくわからないまま、「まあ、いいか!」と、読み進めている人が多いかと思います。
私もずっと、曖昧なまま勉強を続けていましたが、わかれば超簡単です!
では、ゆっくり見ていきましょう!
音韻・音声 ☆☆☆☆☆
音韻…人が発する言語内(日本語なら日本語内)の音。その最小単位を「音素」という。
音素は/ /で示す。
音声…人が発する音(日本語以外も含める)。その最小単位を「単音」という。
音声記号は[ ]で示す。
要するに、音韻は日本語だけの音、音声は世界の言語も含めた音のことです。
例えば、英語では「l」と「r」の区別があります。
英語話者が「l」で「ラーメン」と言っても、「r」で「ラーメン」と言っても、日本語では「ラ」です。
「l」と「r」は違う音ですが、日本語内では区別がなく、同じ「ラ」なのです。
これは、音韻レベルで見ると「ラ」。音声レベルで見ると「l」と「r」となります。
同様に、日本語の撥音「ン」も、音声レベルでは区別されます。
「難波」「案内」という単語で、見てみましょう。
音韻レベル…「難波」…「ナンバ」 「案内」…「アンナイ」
音声レベル…「難波」…「namba」 「案内」…「annai」
音韻レベルでは「ン」ですが、音声レベルでは「m」と「n」の区別があります。
そういえば、大阪の難波駅の「難波」のアルファベット表記は「namba」と書いてあります!
これは、世界的に見れば(音声レベルで見れば)、「m」と書いたほうが、「難波」の「ン」に近い音だからでしょう!
日本語だけを考えて、簡単にまとめると、下のような感じです。
音韻…日本語内の音だけ。
音声…日本語以外の世界の言語も含めた音。
そして、音韻の最小単位を「音素」、音声の最小単位を「単音」と言います。
これも深く考えず、下のように捉えましょう。
「音韻」「音素」…日本語内の音だけ。
「音声」「単音」…日本語以外の世界の言語も含めた音。
ですが、よく使う言葉は「音素」と「音声」なので、そこだけ、整理しておきましょう!
音素 ☆☆☆☆★
音素とは、ある言語においての同じ音とみなされるものの最小単位のことです。
つまり、日本語なら、日本語内の音の最小単位です。/ /で示します。
日本語の音素には下のようなものがあります。当然、「音声記号」よりは少ないです。
母音 | ア イ ウ エ オ → /a/ /i/ /u/ /e/ /o/ |
子音 | カ行 /k/ サ行 /s/ ※タ行 /t/ ※/c/ ナ行 /n/ ハ行 /h/ マ行 /m/ ラ行 /r/ ガ行 /g/ ザ行 /z/ ダ行 /d/ バ行 /b/ パ行 /p/ ※タチツテト/ ta ci cu te to / |
半母音 | ヤ行/j/ ワ行 /w/ |
特殊音 | 撥音 /ɴ/ 促音 /Q/ 引く音(長音)/ʜ/(※/ʀ/を使うこともある ) |
※「半母音」については、ここでは、深く考えなくてもいいです。要するに「ヤ行」と「ワ行」です。
※ /ア/ /カ/ /ラ/ /ン/ のように、仮名で表記されることもあります。(片仮名で書くことが多い)
音素は、上記のもので23個ですが、様々な論争がなされているので、ざっくりと20個~30個ぐらいと覚えておいたらいいでしょう!
(平成29年 試験Ⅰ 問題3Dの(16)で、日本語の音素の数が出題されました。)
音素をどう表記するかについては、様々な論争がなされています。(特に特殊音)
一応、引く音(長音)の例を出しておきますが、気にしたらきりがないので、無視しましょう。
例:妹…/imo ʜ to/ /imo ʀ to/ /imo o to/ /imo u to/ ⇐ /ʜ//ʀ/ を使うか 母音を繰り返すか 等
混乱を避けるため、下のことも書いておきます。
◇ 音素は、ヘボン式等のローマ字表記とは、全く異なるものです。
例:「明日」…音素 /asita/ ヘボン式ローマ字表記 「ashita」
◇ 音素は / / 音声記号は [ ] を用いて、表記します。これも異なるものです。
例:「明日」…音素 /asita/ 音声記号 [aɕita]
音素は日本語の音だけなので、数も少なく、そんなに難しくないです。
やはり、検定試験で多く出題されるのは、「音声記号」=「国際音声記号(IPA)」です。
音声(単音) ☆☆☆☆★
音素は言語内(日本語内)の音だけですが、音声は日本語以外の世界の言語も含めた音のことを言います。
音声は[ ]で示され、明日→[aɕita]のようなものを「音声記号」と言います。
そして、[a]や[ɕ]などの音声の最小単位を「単音」と言います。
検定試験を受ける人が「音声記号とか勉強しないといけないからなあ~。大変だ~。」と言っているのは、
「音素」ではなく、「音声記号」のことです。
音声記号は、試験Ⅱだけでなく、試験Ⅰや試験Ⅲにも出題されるので、検定試験合格に向けての最重要項目の1つと言えます。
ただ、これもテキストを見ると、理解しにくく、「音声記号は後回し…」としている人が多いでしょう。
それは「音韻・音声」のテキストが細かすぎるからです。
(検定試験のために書かれたのではないので、仕方がありませんね…。)
音声記号を極めるのは、困難ですが、「検定試験の問題を解くだけの知識」なら、1つ1つ整理していけば、そんなに難しくないです。
「食わず嫌い」なだけで、勉強してみると意外とおもしろいです!
音声記号については、ここでは書きません。↓の記事をご覧ください。
学習のコツは「ア行」→「カ行」→「サ行」と、順番に整理していくことです!
☞ 国際音声記号(IPA)【第1章 母音(ア行)子音(カ・ガ行)ガ行鼻濁音について】
ミニマル・ベア(Minimal pair) ☆☆☆★★
ミニマル・ベア(Minimal pair)とは、音素が1か所だけ異なる2つの語のペアのことです。
「最小対立」「最小対」「最小対語」とも言われます。
例:「酒」/sake/ 「竹」/take/ 「的」/mato/ 「窓」/mado/ 英語「take」と「make」
「ミニマル・ぺアを選べ」という問題は、こんな感じで考えましょう!
また、このようなペアを言い分ける、聞き分ける練習をミニマル・ぺア練習と言います。
オーディオ・リンガル・メソッドが主流の頃は、ミニマム・ぺア練習を多めにやっていました。
(今、やらなくなったわけではありません。)
検定試験でよく出題されるものを1つ書いておきます。
中国語や韓国語を学習したことがある方はよくわかると思います!
◇ 日本語は「声帯振動の有無(声帯が振動するかどうか)」によって、ミニマル・ぺアをなす。
例:カイ/kai/の/k/(声帯振動なし)=「無声音」⇔ガイ/ɡai/の/ɡ/(声帯振動あり)=「有声音」
※声帯が振動する音を「有声音」、振動しない音を「無声音」と言います。
指でのどぼとけの一番出ている部分のちょっと上を触って、発声すると、違いが感じ取れます。
◇ 中国語や韓国語は「帯気性(呼気を大量に出すか、ほとんど出さないか)」によって、
ミニマル・ぺアをなす。
例: /k/(呼気を大量に出す)=「有気音」⇔ /ɡ/(呼気をほとんど出さない)=「無気音」
※呼気を大量に出す音を「有気音(帯気音)」、ほとんど出さない音を「無気音(非帯気音)」
と言います。
上のように、同じアルファベットで表記される「kai」「ɡai」でも、異なる音となります。
これらは、中国語話者や韓国語話者が日本語を勉強するとき、または、その逆の場合でも、言い分けたり、聞き分けたりするのが難しく感じるところですね!
異音 ☆☆☆★★
異音とは、1つの音素が、異なる音声として現れるときの音のことです。
例えば、日本語の「が」の音素は /ガ/(子音だけなら/ɡ/)ですが、
音声レベルでは[ɡ]と[ŋ]に区別されるので、[g]と[ŋ]は/ガ/の異音だということになります。
2つ、例を挙げます。
/ガ//ɡ/の異音…[ɡ]と[ŋ] 普通に/ガ/と話すときは[g]、鼻濁音で話す時の/ガ/は[ŋ]。
/ン/の異音…[m]と[n] 「難波」の/ン/は[m] 「案内」の/ン/は[n] ※/ン/の異音は他にもある
そして、異音は「自由異音」と「条件異音」に分けられます。
自由異音
自由異音とは、規則性がなく、ランダムに使われる異音のことです。
つまり、それを言っても、言わなくてもどっちでもいい異音のことです。
上に書いた [ɡ] と [ŋ] は「自由異音」です。
[ɡ]は、私たちが普通に話すときの/ガ/の子音です。
[ŋ]は、鼻から息を抜いて話す音で、「鼻濁音」といいます。
「わたしが~」の「が」を、鼻から息を抜いて言ってみてください。それが、[ŋ]です。
この鼻濁音[ŋ]は、以前は美しい音とされ、アナウンサー等が積極的に使っていましたが、最近はそのような傾向は薄れてきているようです。
上のように、[ɡ]と[ŋ]は、規則性がなく、個人の自由で、[ɡ]と言っても、[ŋ]と言ってもいいので、「自由異音」です。
条件異音
条件異音とは、前後に接続する音によって、規則的に現れる異音のことです。
上に書いた「なんば」の /ン/ [m] と「あんない」の/ン/ [n] は「条件異音」です。
撥音/ン/は、後ろの音によってどのような音声になるか決まります。
「なんば」の「ば[ba]」の前なら、[m]。「あんない」の「な[na]」の前なら、[n]となります。
(※/ン/の異音は他にもあります。詳しくは音声記号の ☞ 撥音/ン/のところに書きます。)
これらは、個人の自由で決めるものではなく、規則的に現れる異音なので、「条件異音」です。
自由異音と条件異音は、よく検定試験で出題されるので、簡単に覚えておきましょう!
自由異音…規則性がなく、ランダムに使われる異音。例:音素/g/の異音 [g] と [ŋ] 等
条件異音…前後の接続する音によって、規則的に現れる異音。例:撥音/ン/の異音 [m] と [n] 等
まとめ
「音韻と音声の違い」「音素」「異音」について、重点的に書きました。
まず、音韻(音素)と音声がどう違うか、ご理解いただければいいかと思います。
この記事の内容をご理解いただければ、覚えるのは、下のような感じでいいと思います。
音素…音韻の最小単位。/ /で示す。/カ/⇐仮名で書くこともある。日本語の音素は20~30個。
音声…日本語以外の世界の言語も含む音。音声記号は[ ]で示す。
単音…音声の最小単位。
ミニマル・ペア…最小対立 「酒」/sake/ と「竹」/take/ 「take」と「make」 等
異音…1つの音素が異なる音声として現れるときの音。
自由異音…規則性がなく、自由に現れる異音 例:/ガ//ɡ/の異音…[ɡ]と[ŋ]
条件異音…前後の接続する音によって、規則的に現れる異音。
例:撥音 /ン/ の異音…「なんば」の [m] と「あんない」の [n]
この記事で、「音韻(音素)と音声」の違いがはっきりすれば、
「音声記号」についても、混乱することなく、ご理解いただけるかと思います。
国際音声記号(IPA)について、まとめておりますので、よかったら、ご覧ください!
国際音声記号(IPA)は、検定試験で多く出題されるので、最重要項目の1つと言えます。
音声記号を極めるのは困難ですが、「検定試験の問題を解くだけの知識」なら、1つ1つ整理していけば、そんなに難しくないです。
コツは、日本語で使用する音声を「ア行」→「カ行」→「サ行」と順番につぶしていくことです!
☞ 国際音声記号(IPA)【第1章 母音(ア行)・子音(カ行)・ガ行鼻濁音について】
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