「日本語教師ではないが、日本語を教えることになった!」
「日本語教師ではないが、日本語の教え方をちょっと知りたい!」
という方に、読んでいただきたく、この記事を書きます。
これはズバリ、私が、「日本語教師養成講座の初日に、こんな講義を受けたかった!」という内容です。
第4章は、第3章までと比べると少し専門的な話となります。
日本語教師としての基本中の基本「活用」です。
日本語教師ではない方でも、これが分かっていれば、専門的に教えることができるようになりますので、ゆっくりと読んでください!
第1章からの流れは、下の赤枠のようになっています。
3章までをご覧になっていない方は、ぜひ【第1弾】から、お読みください!
第1章で「丁寧体と普通体」、第2章で「品詞と述語」第3章で「補語」について書きました。
第4章は「活用」です。
活用
「活用って何?」
⇒「なんとなくわかる。変化することでしょ?」
それだけ分かっていれば、十分です! なんか中学ぐらいで習いましたよね。
「食べる 食べない 食べた 食べなかった」等、このような変化をすることを「活用する」と言います。
私は、第2章で日本語を教えるために必要な品詞は、下の5つだけでいいと書きました。
「名詞」「動詞」「※イ形容詞」「※ナ形容詞」「助詞」
※「イ形容詞」…学校文法の形容詞 ※「ナ形容詞」…学校文法の形容動詞
「活用」についても、この5つの品詞で考えていきます。
「活用といえば動詞!」なので、まず「動詞の活用」について書きます。(この記事の約9割は動詞の活用です)
そして、最後に「動詞以外の活用」について、少しだけ書きます。
活用(動詞)
未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
これら、学校文法で並ぶ、思い出したくない言葉です。
これらをちゃんと覚えている人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
しかし、これまた、日本語教育では、これらがわからなくても教えられます!
上の言葉は、日本語教育では、以下のような言葉を使います。
ナイ形 マス形 テ形 タ形 辞書形 バ形 命令形 意向形 等
「はっ?何これ?言葉は簡単になった感じだけど…。」
すぐ、わかります!
動詞「食べる」は、下のように活用します。
食べない⇒「ナイ形」 食べます⇒「マス形」 食べて⇒「テ形」 食べた⇒「タ形」
食べる⇒「※辞書形」 食べれば⇒「バ形」 食べろ⇒「命令形」 食べよう⇒「※意向形」
※「辞書形」…辞書に載っている形。日本人はこれを基本の形として考える。
※「意向形」…「食べよう」「書こう」等、英語で、よく「Let’s ~」で表すもの。
「ナイ形・マス形・テ形…」なんか、急に簡単になりましたね!
では、少し思い出してください。
第1章で、「丁寧体と普通体」について書きました。
そして、日本国内の多くのテキストでは、日本語学習者は「丁寧体」から勉強すると書きました。
具体的に言うと、日本語学習者は「食べる(辞書形)」ではなく、「食べます(マス形)」を先に勉強します。
「マス形」を基本の形として覚えて、他の形(辞書形・テ形など)に活用させます。
(※「辞書形」から教えるテキストもありますが、日本国内のテキストはほとんど「マス形」から教えます。)
では、質問です。ちょっと考えてみてください。
「(シャワーを)浴びます」と「書きます」
この2つの動詞(マス形)を「ナイ形・テ形・タ形・辞書形・バ形・命令形」に活用させてください。
正解は、
「浴びます」→「浴びない」「浴びて」「浴びた」「浴びる」「浴びれば」「浴びろ」「浴びよう」
「書きます」→「書かない」「書いて」「書いた」「書く」「書けば」「書け」「書こう」
ちゃんと説明していないのに、だいたいできたのではないでしょうか?
これらが勉強せずにできるのは、あなたが日本人だからです。
これは、外国人(日本語母語話者以外)にはできません。
例えば「浴びますのナイ形」を「浴ばない」や「書きますのナイ形」を「書きない」とか言ってしまいます。
(っていうか、ルールを知らなければ、それすらも言えません。)
「そんなやつ おれへんわ~」と思うかもしれませんが、事実です。
日本人は、何も考えなくても、これらを話すことができますが、
日本語学習者は、ちゃんとルールを覚えて、練習しないと、話せるようになりません。
(※会話していたら、自然に覚えるだろうというような甘いものでもありません。)
では、ここから動詞の活用のルールを書いていきます。
これをちゃんと教えられるかどうかが、日本語教師の基本中の基本となります。
活用のルールを教える上で、まず必要なのが、「動詞のグループ分け」です。
学校文法では、動詞は下の5つに分かれます。
①「五段動詞」
例:「書く」→「書かない」「書きます」「書く」「書けば」「書こう」
②「上一段活用動詞」
例:「浴びる」→「浴びない」「浴びます」「浴びる」「浴びれば」「浴びよう」
③「下一段活用動詞」
例:「食べる」等→「食べない」「食べます」「食べる」「食べれば」「食べよう」
④「カ行変格活用活用」
「来る」1つだけ。→「来ない」「来ます」「来る」「来れば」「来よう」
⑤「サ行変格活用動詞」
「する」1つだけ。「しない」「します」「する」「すれば」「しよう」
※ ②③をまとめて「一段動詞」、④⑤をまとめて「不規則動詞」とも言う。
少し思い出せたでしょうか? 今はわからなくてもオッケーです!
これらも、日本語教育では下のように簡単な言葉を使います!
学校文法①「五段動詞」⇒日本語教育「Ⅰグループの動詞」
学校文法②「上一段活用動詞」③「下一段活用動詞」⇒日本語教育「Ⅱグループの動詞」
学校文法④「カ行変格活用活用」⑤「サ行変格活用動詞」⇒日本語教育「Ⅲグループの動詞」
超簡単になりましたね!「Ⅰグループ」「Ⅱグループ」「Ⅲグループ」と言います。
では、1つずつ説明します。
学習者に教えるときは、「Ⅲ→Ⅱ→Ⅰ」の順で教えます。
Ⅲグループの動詞
学校文法④「カ行変格活用動詞」⑤「サ行変格活用動詞」をまとめて「不規則動詞」と言いますが、
これらを日本語教育では、「Ⅲグループの動詞」と言います。
④「カ行変格活用活用」…「来る」1つだけ。他に「持ってくる」「連れてくる」など。
⑤「サ行変格活用動詞」…「する」1つだけ。他に「勉強する」「掃除する」など。
つまり、Ⅲグループの動詞は「来る」と「する」だけです。この2つは不規則に活用するので、特別です。
学習者に教えるときは、「マス形(来ます・します)」を基本の形として、教えますので、
『Ⅲグループの動詞は「来ます」と「します」だけです。』と教えます。
Ⅲグループの動詞は、以下のように活用します。活用が不規則で、ルールがありません。
「来ます」…「こない」「きて」「きた」「くる」「くれば」「こい」「こよう」
「します」…「しない」「して」「した」「する」「すれば」「しろ」「しよう」
Ⅱグループの動詞
学校文法②「上一段活用動詞」③「下一段活用動詞」をまとめて、「一段動詞」と言いますが、
これらを日本語教育では「Ⅱグループの動詞」と言います。
② 上一段活用動詞…動詞の語幹の最後が「イ段」のもの。
例:「浴びない 浴びます 浴びる 浴びれば 浴びよう」「見ない 見ます 見る 見れば 見よう」
③ 下一段活用動詞…動詞の語幹が最後が「エ段」のもの。
例:「食べない 食べます 食べる 食べれば 食べよう」「寝ない 寝ます 寝る 寝れば 寝よう」
学習者に教えるときは、下のようになります。
①「~ます」の前が「エ段」の動詞は、100%Ⅱグループ。例:食べます 開けます 閉めます 等
②「~ます」の前が「イ段」の動詞もある。例:浴びます 借ります 落ちます (車を) 降ります 等
③「イ段」「エ段」に関わらず、「~ます」の前が1文字の動詞は、100%Ⅱグループ。
例:寝ます 見ます 着ます 等
Ⅱグループの動詞は、以下のように活用します。
「食べます」→「食べない・食べて・食べた・食べる・食べれば・食べろ・食べよう」
「浴びます」→「浴びない・浴びて・浴びた・浴びる・浴びれば・浴びろ・浴びよう」
「見ます」→「見ない・見て・見た・見る・見れば・見ろ・見よう」
「食べ」「浴び」「見」の部分は変わらず、後ろの活用している部分も形が同じです。
学校文法の「上一段活用」と「下一段活用」を分ける必要がないので、「Ⅱグループ」としているわけです。
日本語教育の方が簡単ですね!
Ⅰグループの動詞
学校文法①「五段活用動詞」を、日本語教育では「Ⅰグループの動詞」と言います。
①「五段活用」…「あいうえお」で変化するもの
例:カ行五段活用「かきくけこ」で変化…「書かない・書きます・書く・書けば・書こう」
例:バ行五段活用「ばびぶべぼ」で変化…「遊ばない・遊びます・遊ぶ・遊べば・遊ぼう」
例:ワア行五段活用「わいうえお」で変化…「買わない・買います・買う・買えば・買おう」
100%のルールではありませんが、下のように教えます。
「~ます」の前が「イ段」の動詞は、Ⅰグループのものが多い 例:書きます 遊びます 話します 等
(※Ⅱグループのところで書いたように「浴びます」「借ります」等は、Ⅱグループです。)
以下のように活用します。五段動詞は変化が大きいので、学習者にとって、困難なものになります。
「書きます」→「書かない」「書いて」「書いた」「書く」「書けば」「書け」「書こう」
「遊びます」→「遊ばない」「遊んで」「遊んだ」「遊ぶ」「遊べば」「遊べ」「遊ぼう」
「話します」→「話さない」「話して」「話した」「話す」「話せば」「話せ」「話そう」
※太字で書いた「書いて・遊んだ」等の「テ形」と「タ形」の活用のルールは、後で説明します。
以上のⅠ・Ⅱ・Ⅲグループのルールがわかれば、
学習者は、動詞(マス形)を見ただけで、何グループの動詞か、ある程度、見分けられるようになります。
まとめると、以下のようになります。
① Ⅲグループは「来ます」と「します」。(「持ってきます」や「勉強します」なども含む。)
②「~ます」の前が「エ段」なら、100%Ⅱグループ。 例:消えます あげます 等
③「~ます」の前が1文字なら、100%Ⅱグループ。 例:見ます 寝ます います 等
④「~ます」の前が「イ段」なら、Ⅰグループのものが多いが、Ⅱグループのものもある。
例:Ⅰ 買います 飲みます 座ります 等 Ⅱ 浴びます 借ります (車を)降ります 等
ちょっと複雑になってきましたね。
でも、真面目に勉強している学習者は、この「グループ分け」ぐらいまでは、そんなに難しいとは感じません。難しいのは、これから書く「実際に使うこと」です!
では、具体的に「ナイ形・テ形・タ形・辞書形・バ形・命令形」等を、どうやって教えるかを書いていきます。
まず、これらは1つ1つ勉強すると思ってください。
つまり、「食べます」の活用を「食べない・食べて・食べた・食べる・食べれば・食べよう」と一気に覚えるのではなく、「今日からはナイ形」というふうに、しばらくは「ナイ形」ばかり勉強します。
では、「ナイ形」を例にして、どうやって教えるか書いていきます。(長くなるので「ナイ形」だけ)
(※下の例は教える方法をまとめているだけです。話せるようになるには、それぞれ口頭練習が必要です。)
◇ Ⅲグループ…2つだけなので、それぞれ単独で教える。
「来ます」→「来ない」 「します」→「しない」 「勉強します」→「勉強しない」
◇ Ⅱグループ…「~ます」が「~ない」になる。
例:「食べます」→「食べない」 「浴びます」→「浴びない」
◇ Ⅰグループ…「~ます」の前が「ア段」になり、「~ます」が「~ない」になる。
例:「買います」→「買わない」、「書きます」→「書かない」、「話します」→「話さない」
「遊びます」→「遊ばない」、「※死にます」→「死なない」
※「※死にます」いわゆる「ナ行五段活用」の動詞は「死ぬ」1つだけです。
「ナイ形」が言えるようになれば、その「ナイ形」を文の中に入れ込んで、以下のような、いろいろな文が話せるようになります。
① 動詞 ナイ形 ないでください。→ここで、写真を 撮らないでください。
② 動詞 ナイ形 なければなりません。→家へ 帰らなければなりません。 等
※①はナイ形「とらない」の「撮ら」 ②は「帰らない」の「帰ら」の部分を入れ込んでいる
このような考え方を応用するだけで、「ナイ形以外の活用形」も教えることができます!
ですが、「テ形」と「タ形」はちょっと厄介なので、説明しておきます。
Ⅰグループの動詞「書きます」の「テ形」は「書きて」ではなく、「書いて」になります。
「音便」と言われるものです。
「テ形」を例として、ルールをまとめると、下のようになります。「タ形」は「テ形」のルールと同じです。
(Ⅱ・Ⅲグループは、音便は関係ないので、省きます。)
Ⅰグループの動詞の「テ形」
◇ 「~ます」の前が「い・ち・り」の動詞は「~って」になる。
例:「買います」→「買って」 「立ちます」→「立って」 「帰ります」→「帰って」
◇ 「~ます」の前が「み・び・に」の動詞は「~んで」になる。
例:「読みます」→「読んで」 「遊びます」→「遊んで」 「死にます」→「死んで」
◇ 「~ます」の前が「き」の動詞は「~いて」になる。
例:「聞きます」→「聞いて」 「書きます」→「書いて」
◇ 「~ます」の前が「ぎ」の動詞は「~いで」になる。
例:「泳ぎます」→「泳いで」 「急ぎます」→「急いで」
※ 学校文法の「サ行五段活用動詞」は音便化しない。「~ます」が「~て」になるだけ。
例:「話します」→「話して」 「貸します」→「貸して」
※「行きます」は例外。
「行きます」は上のルールで考えると、「行いて」になるが、例外で「行って」になる。
「ナイ形」と同様に「テ形」を文の中に入れ込むと、下のような文が話せるようになります。
動詞 テ形 ください。→ 漢字が わかりませんから、ひらがなで 書いてください。
動詞 テ形 もいいです。→ ここで たばこを 吸ってもいいですか。 等
嫌にならないでください 笑笑
学習者は、これらを全部覚えて、話せるようになるまで練習するので、もっと大変です!
「書きます」と覚えたら、「書いてください」と言えるわけではないのです…。
意識の低い学習者は、このあたりで、日本語の勉強をやめてしまう人もいます。
日本語って、結構難しいですね。
では、最後に日本人の「動詞のグループ分け」の方法を紹介します。(※学習者に教える方法ではありません)
◇「~ない」の形にして、「~ます」の前が「ア段」なら、Ⅰグループ。
例:書く→「書かない」 帰る→「帰らない」 買う→「買わない」 等
◇「~ない」の形にして、「~ます」の前が「イ段かエ段」なら、Ⅱグループ。
例:浴びる→「浴びない」 見る→「見ます」 食べる→「食べます」 等
◇ Ⅲグループは「来る」と「する」だけ。
他に「持ってくる」「連れてくる」「勉強する」「観光する」等
「動詞の活用」については、以上です。
動詞の活用は、上に書いた「ナイ形・テ形・タ形・辞書形・バ形・命令形」以外にもありますが、
上の手順で考えていくと、全て教えることができます。
では、最後にちょっと、「動詞以外の活用」について、書きます。
活用(動詞以外)
私は第2章で日本語を教えるには、「名詞・動詞・イ形容詞・ナ形容詞・助詞」の5つの品詞で教えられると書きました。ここでは、この5つの中の「動詞以外の活用」について、書きます。
◇「名詞」「助詞」…活用しません。
◇ ナ形容詞(学校文法の「形容動詞」)
「静かだ」「静かな」「静かに」等、正確に言うと「活用する」語なのですが、「静か」という単語自体は変化せず、「活用練習」は特に必要ありません。学習者には、変化するものと教えなくてもいいでしょう。
◇ イ形容詞(学校文法の「形容動詞」)
例:「寒い」→「寒い・寒くない・寒かった・寒くなかった」「寒かったら・寒ければ」等
上のように活用します。他のイ形容詞も同じ変化なので、1つできれば、他もできるということになります。
例:「忙しい」→「忙しい・忙しくない・忙しかった・忙しくなかった」「忙しかったら・忙しければ」等
動詞のように、活用形がいっぱいあるわけではないので、詳しくは書きません。
とりあえず、「イ形容詞も活用の練習が必要」ぐらいに思っておけばいいと思います!
まとめ
第3章までに比べて、急に難しくなったと感じたでしょうか?
日本語教師ではない方に、ここまで理解しないといけないとは、言えませんが、
この活用の知識があるだけで、教えられる内容は大幅に広がります。
日本人にとっては、ちゃんと整理できれば、難しくないと思います。
何か初級のテキストを持っている方は、見てみてください。
この記事の内容がわかった方は、テキストの大まかな流れがわかるはずです!
この記事の内容をまとめると、以下のようになります。
・動詞の活用の指導方法
① 動詞のグループ分け…Ⅰ・Ⅱ・Ⅲグループに分かれる。
② 指導する順…「Ⅲ→Ⅱ→Ⅰ」
③ それぞれ、ルールを説明するだけでなく、話せるようになるまで「活用練習」をする。
では、次は最終章「第5章 普通体について」です。よければ、続けてお読みください。
日本語教育の初級の流れが、一通り、ご理解いただけると思います!
第5章【普通体・普通形について】
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